法律と税の知識を生かして企業の事業承継を支援
後継者との深いコミュニケーションが事業承継には欠かせません
株式の移転などに伴う税制上の問題と、民法や会社法などの各種法律問題に複雑な人間模様までが交わって、どうしても難解なイメージがつきまとう事業承継。しかし、企業の事業承継支援に取り組む公認会計士の百々季仁(どど ひでひと)さんは「実際には事業承継をスムーズに行うことができないほどの複雑な案件は少ない」と言います。2008年5月に大阪商工会議所が設置した事業承継支援センターにて、毎週金曜日の午前9時15分から12時まで事業承継の相談を受けている百々さん。法律や税金、M&Aなどの幅広い知識とノウハウを駆使し、これまで会社の規模、業種を問わず、数多くの相談を受けてきました。
「事業承継は財産権の承継と経営権の承継の大きく二つに分かれます。それぞれ相続や人事権に関することですので、背景にさまざまな人間関係が存在することが“事業承継は難しい”と言われる所以(ゆえん)です。しかし、目の前の問題を一つ一つ解決していけば何も心配することはありません」
百々さんが相談を受けてきた中で最も相談件数が多かったのは“後継者がいない”といった悩みだったそうです。「事業承継には“親族、従業員、取引先などの第三者”の三つのパターンがありますが、例えば、息子さんに会社を継がせたいとお考えの場合でも、息子さんとしっかりお話をなさっていない経営者の方が意外と多いんです。“息子は嫌がっている”と経営者の方が勝手に思いこんでいるだけのケースも少なくありません。親族に承継するなら家族会議を開催することをお勧めしています。後継者と何度も話し合うことが事業承継の第一歩。それは親族に限ったことではなく、従業員や取引先に承継する場合も同じこと。後継者には会社の魅力や経営のおもしろさを伝えてあげてください。M&A(Mergers and Acquisitions)の検討をお考えの経営者もいますが、M&Aは簡単にできることではありません。現在M&Aの市場はとても小さく、買収してくれる企業を探すのも至難の業。それに、従業員の気持ちやプライドなどの人間模様がM&Aによる事業承継を複雑にします。身近な人の中から後継者候補を見つけることを私としてはお勧めしています。ほかには株式の移転についての相談も多くありますが、株価対策として、投資育成会社に投資をしてもらう投資育成制度の活用や、経営者が退職金を受けとることで株価を下げることができます。税制上の問題や株価対策、法律問題などは私たち専門家に任せてください。しかし、会社の人間関係は私たちにはどうすることもできませんので、まずは普段のコミュニケーションに目を向けてほしいと思います」
事業承継問題に造詣(ぞうけい)が深い百々さんの話を聞けば聞くほど、事業承継と人間関係の問題は、切っても切れない関係にあることを実感することができました。
後継者は経営者自身が時間をかけて育てるもの
関西学院大学を卒業後、監査法人にて証券業などの上場企業の監査業務に10年以上、携わっていた百々さん。2004年に独立して以来、企業の再生支援にも力を入れはじめ、中小企業再生支援協議会の専門スタッフとして数多くの会社の再生を支援してきました。大阪商工会議所の事業承継支援センターの相談役となったのも、中小企業再生支援協議会の専門スタッフとして活躍していたことがきっかけだとか。
インタビューの最後に、百々さんは“後継者がいない”とお悩みの経営者にこんなメッセージを送ってくれました。「事業承継について書かれた本には理想の後継者像について記載されています。“素直な心で感謝の気持ちを忘れずに、謙虚で学ぶ姿勢を持ち、強いリーダーシップがあり、良い人間関係を構築することができて、会計上の数字を理解できる人”。こんな人、ほとんどいませんよね。少なくとも私は出会ったことがありません(笑)。はじめから経営者としての素質をすべて満たしている人なんていないんです。しかし、承継する意思さえあれば、鍛練することで経営者として必要な能力は身につけていくことはできます。早めに事業承継計画を作って後継者を育てていくことが大切なんですよ」
百々さんは自身が講師を務めるセミナーでは、冗談も交えてわかりやすい説明を心がけています。出席者から笑いが沸き起こることも。そして、終了後には出席者に囲まれて質問攻めにあうことも多いそうです。
「そろそろ引退したい」とお考えの経営者の皆さま、事業承継にお困りの場合は大阪商工会議所の事業承継支援センターに足を運んでみてください。
(取材年月:2009年10月)