“食べ聞かせ”で食の本質を伝える
家庭料理と食卓はぬくもりと知識を与える
大阪市中央区で、“食べ聞かせ”を提唱する、株式会社オフィスフォーティーが運営するシェリブロ。日々の家庭料理をとおして、食生活のありかたと意味を再認識してもらうための、食べ聞かせのチーフインストラクターとして活躍する今井冴香さんに、話を聞きました。
シェリブロが食べ聞かせを提唱するに至ったのは、料理教室を運営するなかで、楽しさだけを追求する教室に対して疑問を持ったことに始まります。料理の基本、食材の産地、効能を知らない生徒が意外に多いことを知り、ただ単に料理を教えるだけでなく、食材の歴史や、産地の文化・歴史などを合わせて学んでもらうことの必要性を感じたことから、「地産地消」、「家庭予防医学(食の医学)」、「食の楽しさを広げること」の3つをコンセプトにした“食べ聞かせ”に力を注ぐことになります。「健康な食生活を送るための知識は、昔なら調理や食事の折に、家族たちから自然に入ってきました。しかし、時代の流れとともに、一緒に調理したり、食卓を囲む時間が持ちにくくなったばかりか、手間のかからない料理や外食が増えたことで、調理方法はもちろん、食材の持つ栄養価や産地、旬、食材の名前さえ知らずに育った大人が増えています。日々の家庭料理や食卓は、家族のぬくもりを感じるだけでなく、会話を通して学ぶことがたくさんあります。料理に関連した会話のある、楽しい食卓が大事なのではないでしょうか」と、今井さんは警鐘を鳴らします。
生産地に足を運ぶことの意義
食の楽しさを広げる活動の一環として、シェリブロでは、各地の自治体や生産者と協力し、地場の旬の食材を使った“地産地消の「食べ聞かせ」イベント”を行っています。今年10月には、JA大阪市主催の親子参加型のイベント「食農体験学習ツアー」を開催しました。同JA管内の家族連れら60人余りが参加した同イベントでは、レンコン収穫の見学や、今井さんが講師を務める「子ども料理教室」が行われ、レンコンを使った調理実習のほか、良いレンコンと良くないレンコンの見分け方なども指導し、好評を得ました。
「野菜には生産地があり、生産者がいて始めて口にできるのです。どんなところで採れた野菜なのか、どんなふうに作られているのか、どんな栄養価があるのかを知るためにも、実際に産地へ足を運び、生産者の姿を見ることが大切です」と、生産者とのかかわりを知り、生産者への感謝の心を持つことの大切さを語る今井さん。そして、「その土地で採れた食材に、その土地の歴史や文化、地域性などを料理に乗せて伝えることで、食材に対する興味も深まり、調理も食べることも一層楽しくなるのではないでしょうか。単に食育や地産地消といっても限界がありますが、『食・料理』という衣服をかぶせることで、楽しさやおいしさが添加します。シェリブロは、こうした様々な活動を通して、より幅広い層へ“食べ聞かせ”を訴求していきたいと考えています」と、食べ聞かせの楽しさを笑顔で教えてくれました。
食を通して体に有効な家庭医学を知る
幼いころから調理をすることが好きだった今井さんは、栄養士免許と教員免許を得、大学卒業後に、神戸市の高等学校の調理師養成コースで8年間教壇に立ちます。その後も、多くのセミナーや食育授業などで現場経験を重ね、“食のプロフェッショナル”としてその名を知られています。毎月、シェリブロのクッキングスタジオで食べ聞かせの講義なども行う今井さんは、生徒の食に関する知識の乏しさを痛感し、自分では当たり前と思っていたことが、当たり前ではなかったことに気付きます。中でも今井さんが懸念するのが、食材の効能に関する知識不足。「食材には、それぞれに効能があります。生徒には、食を通して有効な家庭医学を伝えるとともに、“家庭料理は、家族の命を管理する大切なもの”という自覚を促しています。生徒たちがここで学んだことを、家族や友達に話してくれたら、それが、食べ聞かせとして広がりを持つことになるのです」と、誰もが日常の何気ない会話を通して、食べ聞かせができることも教えてくれました。
現在、シェリブロでは、今井さんを中心に、「食べ聞かせ事典」を編集しています。そこには、家庭料理のぬくもりと、知っていると得するコツやヒント、技術だけでなく、より深く料理を楽しむために、背景にある文化、伝統、国柄、歴史などが盛り込まれ、“食の本質”を伝えたいと願うシェリブロと、今井さんの温かい心が添えられていることでしょう。
(取材年月2009年11月)